2010年4月1日木曜日

ORGANUM SOROW CD (Siren 018)




 David Jackman はイギリスの香りを強く感じさせるアーティストです。音楽家であり同時にビジュアルアーティストでもあるDavid Jackmanのアーティストとしてのキャリアは40年以上にわたります。1969年には、親友でもあったCornelius Cardewが組織した音楽集団Scratch Orchestraに参加し、1971年にDeutsche Grammophonからリリースされた名盤"The Great Learning"には演奏者としてその名を見つけることが出来ます。また、当時Scratch OrchestraのメンバーであったMichael Nymanが執筆した重要書籍「実験音楽―ケージとその後」(水声社)には、David JackmanがScratch Orchestra時代に制作した"Scratch Music"のスコアが掲載されています。(このスコアは非常にコンセプチュアルなもので、一読の価値ありです。)当初は純粋な音楽集団であったScratch Orchestraが徐々に政治色を強め、政治のための音楽集団に変貌したことに失望したDavid Jackmanは、1972年にScratch Orchestraを去りますが、Cornelius Cardewとの厚い親交はCardewが1981年12月に謎の事故死を遂げるまで続きました。

 AMMのEddie Prevost, John Tilbury, Keith RoweはScratch Orchestraの重要なメンバーでしたが、Eddie PrevostによるシンバルのBowing奏法、John Tilburyによるピアノの内部奏法は、David Jackmanに大きな影響を与え、初期Organumのトレードマークとなった様々な金属をBowingすることにより生み出されるドローンの基礎となりました。

 Scratch Orchestraの解散後、メンバーの多くが、現代音楽や即興音楽の領域に留まったのに対し、David Jackmanはソロ名義で数多くのカセットリリースを行った後、Organumの名義で当時のポスト・インダストリアル・ミュージックシーンに登場します。David Jackmanは当時からOrganumがノイズ・ミュージック/インダストリアル・ミュージックの一部であるとは考えておらず、シーンに対してもメディアに対しても距離を置いていましたが、初期Organumのレコードジャケットに見られるDavid Jackmanの手による人体臓器の緻密なコラージュが与えたインパクト、滅多にメディアに顔を見せない姿勢とも相まって、Organumをその実体以上にミステリアスな存在として印象づける結果となりました。

 The New Blockadersとの協同制作である名盤7インチ"PULP"(1984年)のリリース以後の活動についてここで詳しく述べるスペースはありませんが、David Jackmanを師と仰ぎOrganumの作品に参加したアーティストはThe New Blockaders のRichard Rupenusを始めとして、Andrew Chalk (ex-Ferial Confine, ex-Mirror), Jim O'Rourke, Christoph Heemann (ex-H.N.A.S., ex-Mirror), Michael Prime (Morphogenesis), Robert Hampson (ex-Loop, ex-Main)など、枚挙に暇がありません。また盟友であるAMMのEddie Prevostとは数々の協同作品を残しており、数年前に行われたAMMのコンサートでは、音楽的意見の相違からAMMを脱退したKeith Roweの代わりとしてDavid Jackmanが演奏に参加し、Eddie Prevpost/John Tilbury/David Jackmanのトリオによる即興演奏が行われました。

 1960年代後期、AMMはピンク・フロイドと何度か共演しており、初期のAMMのコンサートにはポール・マッカートニーが観客として加わっていたという逸話が残されています。当時を振り返ってEddie Prevostは「新しい音楽が生まれる時、実験音楽、ジャズ、ロックといったジャンルに関係なく、音楽に携わるものが共に影響を受け合っていた。また、リスナーもそれを受け入れていた」とインタビューで述べています。また、これに関連して「60年代のAMMがそうであったように、Organumは実験音楽・即興音楽とロックをつなぐ架け橋の役割を果たしたと思う」とも述べています。

 Organumの新作アルバム 'SOROW'は、スタイルとしては近年のOrganumの作品の延長線上にありますが、位置付けは過去の'Holy Trilogy'(聖なる三部作)、'Sanctus', 'Amen', 'Omega'とは異なるものです。初期のOrganumの作品には、即興演奏をベースとしながらもチベットやインドといった東洋の宗教音楽からの影響があり、近年の'Holy Trilogy'では西洋の視点から、シンメトリックな構造を持つ楽曲への試みが行われていました。新作'SOROW'はヨーロッパのオルガンによるドローンと反復するインドのタンブーラを軸に、日本の梵鐘の音が絡み付く、東洋・西洋といった枠組みを越えた正にユニヴァーサルな大作です。様式ではなく、音楽の本質がユニヴァーサルであること、これこそがOrganumの魅力だと思います。シンバルの摩擦やピアノの内部奏法によって生み出されるドローンを作品の柱とし、そこに尺八の演奏や肉声を絡める手法を採用した初期のOrganumとは演奏方法や音の構築方法は異なりますが、Organumの本質は一貫して変わっていないことを実感していただけるはずです。

 「Let the music speak for itself - 音のことは音自身に語らせよ」

 Siren Records / 鈴木大介

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